実践!一人暮らし-あたる生活 >お部屋編>いざ契約>待ちわびた朝1話

手ぶらぶらぶら行進曲?



初めて一人暮らしをすることになった街と、いなかから電車に揺られ、夕方くたくたになって辿り着いた壁と天井と床があるだけのがらんとした部屋。その一日目の夜を早乙女は服のまま丸くなって眠り朝を待ちました。

翌日早々に、実家から送った薄っぺらい布団が届き、ガスの開栓手続きを済ませて外へ出ました。車の往来の激しい大通り沿いを歩き、立ち食いそばで少し早目の昼食をやり、何もない生活道具をまずは揃えようと散策がてら街のアスファルトに踏み出すと、たっぷり残された今日という時間がたまらなく煌びやかに思えるのでした。


右も左も分からないままひとの流れを追いかけ、まずはテレビを買おうとそれらしき商店を捜し歩きました。やらわかい陽射しに背中が汗ばみ、見上げた空の深さに自由をかみ締めました。
ときどきジーンズのポケットに手を当てて真新しいカギの感触を確かめつつ、胃の奥からふつふつと湧きあがってくる幸福感ににんまりしそうな顔の奥歯にぐいと力を入れ、すれ違うひとたちに気づかれぬよう上手に堪えるにはたぶんコツがあるんだろうななんて空想に耽たりしました。

古びた庇を広げた惣菜屋のおばさんが店の前に品物を並べ、ビタミンドリンクをサービスするよと道行くひとに声をかければ、白髪交じりの馴染みのお客が、なんだまた売れ残りかと冷やかし、向かいの生気のない生花店の親父が、そんなもんは体によくねえよとホウキを持ちながら唾を飛ばしてぶつくさ文句を言う。そんな風景に、ああ俺もいよいよここの住人になるのだとあらためて感じ入るのでした。


歩いても歩いてもいくら歩いても疲れることがなく、電線から降ってくる小鳥の粗相を間一髪かわしてみればこの街は俺に合うなどとますます悦に入り、気分がよく足取りは軽快そのものでした。

そんな調子で歩いていたらいつの間にか踏み切りを渡り駅を越え、気がつくと反対側のどちらかというと寂しい住宅団地のほうまでてくてくと突き進んでいたのでした。



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