実践!一人暮らし-あたる生活 >お部屋編>求む!連帯保証人>涙の手のひら返し1話

夕暮れのご新規様



不動産屋で働いていれば、借主と連帯保証人のちょっとしたドタバタを目の当たりにすることもあります。


この中年のご夫婦は持ち家のローン返済に問題が生じて競売にかけられたらしく、4人の子供とともに沈痛な面持ちで店にやってきました。

希望はなるべく広めの借家。賃料はできるだけ安く最初にかかる敷金、礼金などの初期費用が極力抑えられるもの、とのことでした。


早乙女はその条件に見合った物件を2つ選んでご夫婦に紹介したところ、即決で一方を借りたいということになり、来店したその日のうちに申込用紙に記入してもらうこととなったのです。

ところが、連帯保証人として予定している人物の住所や職業欄でご主人の手が止まりました。
頭を抱えてとなりに座っている奥さんとなにやら相談しています。
「この、連帯保証人というのはぜったいに必要なの?」と奥さんが口を開きました。
早乙女が、はい原則として御身内で収入がある方を立ててもらうことになっているんですよ。というと、二人はすっかり参ったように「なんとかならないでしょうか?」と心底困った様子でボールペンを両手で弄り始めました。


見た目も態度も普通でしたし、小さな子供を抱えている事情もあったので、早乙女は保証人不要プランを、つまり当店で扱っている保証会社の審査を受けてみてはどうですか? と提案しました。
この審査に通れば保証会社が借主の連帯保証人になってくれるので、こちらとしても大変ありがたいことでした。
ただ、ローンの支払いに窮したことが原因でこのように新しい住まいを探しに来ているわけなので、保証会社による審査は間違いなく厳しいものになるはずです。

翌日、店に出勤するとさっそく保証会社から昨夜、ご夫婦が申し込んだ審査の結果がFAXで届いていました。「残念ながら今回は〜」という、不合格通知でした。


あの幼い末っ子や健気に親を見つめていた中学生の長女のことを思い出すと大変気が重くなりましたが、早乙女はこの審査結果をどうしたってあのご夫婦に伝えなければならないわけで、たっぷり注いだ冷たいカフェオレを飲み終えてしまうと事務的に電話に手を伸ばしました。悲しいお知らせをするときはいつだって感傷を頭の隅に閉じ込めます。

電話口に出た奥さんに結果を伝えると、思わしくない様子を察知したらしいご主人が慌てた様子でこれを代わり、「明日、連帯保証人を連れて店にいきます」といいだしました。
あてが見つかったのですか? と早乙女が尋ねると、「はい、何とかしますんで」とだけいい残して追求を逃れるように電話が切られました。

果たして本当に明日来るんだろうか…。
当然そのようなことが脳裏を過ぎりましたけれど、この仕事をしているとスッポカシに遭うのは日常茶飯事なので、期待もせず、かといって忘れるわけにもいかないといったありがちな心持ちで受話器を置きました。



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