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>お部屋編>SLDKとは?>ドアを開けたら1話 絡みつく目線 |
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初めての一人暮らしを開始して二日目の夜、突然何者かに部屋のチャイムが鳴らされ、買ったばかりのテレビの前で寝転びながらうとうとしていた早乙女は、そのキンコーンという派手な音に飛び起きました。 こんな時間に一体何なんだと、それとも俺、さっそくいけないことでもしてしまったのかもな…? そんなことを考えながら半分ほどゆるりとドアを開けたところ急に外からグイと引っ張られ、おっとっとと前のめりになったとたん、見知らぬ男が玄関口に強引に体を入れてきました。 男は中年の一歩手前といった感じで、剃り残したような不揃いなひげを生やしていました。頬はこけ、早乙女の顔を見るなりニヤリと口を曲げました。 「あ、××新聞ですけど。3ヶ月くらいどうかなって思ってきたんですが」 ああ、これが噂の訪問営業かと、テレビや雑誌で見たことのある有名なお客がいよいようちにもおでましだとばかりに、いらんです、とこれまた良くあるマニュアルどおりに気を持たせず断ってさっさとドアを閉めてしまおうとした矢先、早乙女の手が内側のドアノブを抑えている男の指にわずかに触れました。すると男、「いてえっ」と仰け反ってその指をこれ見よがしにぶらぶらと振るものですから、早乙女はビックリしてつい、すみませんと謝ったのでした。 「いてえなお前、指怪我しちまったじゃねえか、お?」 男は態度を豹変し、痛めたらしい指を抑えながら早乙女に迫りました。「お前、これ傷害だぞ。どうすんだよコラ」 いいながらまた一歩体を入れ、仕切りもプライバシーもないワンルーム7.5畳の部屋の中をじろじろと見渡しました。 引越したばかりでまだがらんとした室内に電話がないのを確認したらしい男は、一層強い口調で「いてえよ、これ折れてるからよう、これじゃもう仕事できねえなあ?」などと凄んできます。まだ携帯電話が広く普及するちょっとまえの時代のことですので、電話機のない早乙女はまるで丸腰同然で助けを呼ぶこともできず、ただ恐ろしくて恐ろしくていつの間にか両方の膝が小刻みに震えてしまっていました。 若い早乙女が恐怖ですっかり萎縮し、膝まで震わせていることを知った男はいけると確信したのか「新聞いまキャンペーンやってるから6ヶ月とってみようよ。な?」と最初の時のような穏やかな振りをした口調で同意を求めてきました。 けれどもそれとこれとは別だと思いましたし、なにより自分が馬鹿にされていることは明らかでしたのでやはり、いりませんと答えました。本当にいらなかったのです。 すると丸く見開いて早乙女を凝視していた男の目は一瞬のうちに逆三角形に変化していきました。それから再び「ひとに怪我させておいて新聞もいらねえっていうのかよ、お前通用しないよそれじゃあ」などと息もかかるくらいに顔を近づけて声を押し殺すので、指のことは謝りますけど新聞はいらないです、と付け加えてみました。その声も情けないほど震えているのが自分でもわかりましたし、膝は一層がくがくと音をたてていましたので、本当は腰が抜けないように立っているだけでも精一杯でした。 男はそんな早乙女の無様な弱さを見透かしなおも捲くし立てましたが、「しんぶんはいりません」と訓練されたオウムのように必死に抵抗した結果、「チッ、生意気なガキだなこの野郎」という捨て台詞とドアに足蹴りを見舞いつつ踵を返すと、もはや時間の無駄だとばかりに足早に退散してくれました。 カギを閉めてよろよろと布団の上に座ったら鉛のような疲労が頭の上に重く圧し掛かってきたのでたまらずばたんとうつ伏せになり、早乙女はひんやりした固い枕におでこを押し付けました。 疲れ果て、いきなりやってきた一人暮らしの洗礼にスイッチ回線みたく上手に頭を切り替えることができないでいました。 それからさらに数日後、早乙女はまた失態を犯してしまったのです。 前へ← メニュー →続き |