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>お部屋編>条件が決まらない>父こころ2話 それぞれの憂い |
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早乙女は和弥君を乗せ車を走らせました。故郷のことを尋ねると、かれは目的地に着くまでずっと地元の話をしてくれました。その間は心なしか表情も明るい様子でした。 部屋の鍵を開けると和弥君は吸い込まれるように奥へと進んでいきました。 どう? と早乙女が尋ねると「やっぱいいっすね」と笑い、「南はどっちですか?」なんてちょっと照れくさそうに紋切り型の質問をするものですから、早乙女まで「こちらですよ。風通しも良いですし洗濯物も早く乾きますね」などという捻りのない自分の受け答えに一抹のハズカシさを覚えました(´`*) そんなこんなでたった8日の間に早々と申し込みから引越しまで済ませた和弥君は、無事生涯初めての一人暮らしをスタートさせたのです。 それから数日後、遅い昼食に出かけようとしていた早乙女宛に一本の電話が鳴りました。「あ、もしもし。和弥の父ですけど先日は息子がお世話になりました」 お父さんとは契約の時に一度会っており、すぐに顔を思い浮かべることができました。いえいえこちらこそと、遠方からはるばるやってきてくれたことにお礼を述べたところでさっそくお父さんの話が始まりました。 「じつはね、相談というかお願いなんだけど、息子が借りている部屋にエアコンはつけてもらえないのかと思いまして」 たしかに和弥君が借りている部屋にはエアコンは付いていません。でもそれは借りる前に分かっていることですし、その分賃料は安めに設定されている物件でした。 ですので、借りる前であればそういう申し出も大家さんに交渉できますが、契約してしまった後ではひどく難しい話ですよ。と、早乙女は答えました。実際、このようなことは後出しじゃんけんを食らうような気分になるみたいで大家さんはものすごくいやがります。 すると「ええ、そうでしょうけどもね、今時エアコンもないなんてねえ・・・お願いしますよ」とお父さんは引きません。 和弥君はなんていっているのですか? と早乙女は尋ねました。 実際暮らしている本人が問題なければそれほど重要な話ではないと判断できます。こういった子供を思う気持ちが膨らんで一方的に親御さんからの注文がくることは決して珍しいことではないのでした。 ところがお父さんによると和弥君は、見学の時は急いでいてあまりよく中を見ないで決めてしまった、本当のところをいえばエアコン以外にも浴槽がもっと広いほうがいいし、そもそも通学により便利な○○線沿いで探せば良かったと後悔しているというのです。 だから「とりあえずエアコンの件だけでも大家さんに付けてくれるか訊いてみてくれないか」ということを何度も早乙女に念押ししつつ、お父さんは電話を切りました。 早乙女は小一時間考えたところで大家さんのダイヤルを押しました。 しかし返事は「エアコンは自費で設置する分には構いませんよ。どうしてもこちらで付けて欲しいというのであれば、家賃を2千円ほど上げてもらいたいですねえ。だってほかの部屋の入居者さんが気の毒でしょう」というものでした。なんとか大家さんを説得できないものか考えていたのですが、案の定入居した後では道理にかないません。契約前であればいざ知らず、一度お互いが納得して契約をしすでに入居までしているのですから、大家さんにしてみれば「今更困ったものだ」となってしまうのもしかたのないことでした。 その旨を早乙女はそのままお父さんに伝えました。「考えます」といってから返事はまだありません。 お気付きのように、今回の件について振り返ってみても楽しい気分でいるひとは一人もいないのです。和弥君もお父さんも大家さんも皆もやもやしていることでしょう。 早乙女も寂しい気分でいます。 当の和弥君は現在も賃料が遅れることもなく、このアパートで暮らしています。 1話へ メニュー 次へ |