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>入居後編>猫のぬくもり>ニャンコがやって来た2話 鳴いておくれ |
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この日、目を覚ました早乙女はポンがいないことにすぐに気がつきました。 いつもなら早乙女が寝ている布団の上で丸くなって休んでいるのに、その姿が見当たらなかったのです。 はて・・・? と辺りを見渡しソファーの下やテレビの裏、はたまた下駄箱の中まで身を屈めて探し回りましたがどこにもいません。いつも騒がしいポンがどこにいるのか分からないなんて非常に珍しいことでした。 首を傾げるばかりの早乙女がふと顔を上げて汗を拭いかけた瞬間、蒸し暑いはずの八月の部屋が凍りつきました。 熱を逃がすために開けてあった窓からは相変わらずうちわで煽るほどの風も入ってきてはいませんでしたけれど、外側の網戸が何らかの力によって動かされた形跡があったのです。ほんの少しだけ…8センチくらいでしょうか、蚊を入れないために間違いなく寝る前は閉めてあったはずの網戸に隙間が開いていたのでした。 ここは地上3階で、しかも窓の外には土より固いコンクリートの駐車場が敷き詰められています。早乙女はおそるおそる階下に目をやりました。悲惨な光景だけは見たくない、とすがる気持ちで呼吸が止まりそうなほど体が強張っていました。そして。 思わず「あっ」と声をあげてコンクリートに寝そべるその白い物体を凝視しました…どうやらどこからか飛んできたらしい発泡スチロールの破片のようでした。 早乙女はもういても立ってもいられず急いでサンダルを突っかけると駆け足で階段を蹴り、1階に下りました。 ![]() 「ポン!ポン!」アパートの周囲を何度も何度も回ってポンを呼びました。どこにも行かないでおくれ、返事をしておくれ、そんなふうに念じつつ隠れていそうな場所を必死で探しました。時間にして数分のことだったのでしょうが、車のタイヤの陰にその白と黒の小さな背中を見つけるまでは気が遠くなるほどひりついた長い間に感じました。 ポンは体を固く丸めてぶるぶると震えていました。早乙女が抱きかかえてもその姿勢を崩さず声を出すこともありませんでした。口の上に少し裂傷が見受けられたものの、あとは不思議なくらい傷が見当たりませんでした。ただ下から見た3階の部屋の窓は本当に高くて、自分だったら瀕死は免れないだろうなと思わずにはいられなかったです。 早乙女は一旦部屋に戻って着替えると、ポンを病院に連れて行きました。 診断の結果、ポンは前足の両中指を骨折していました。おそらく窓から転落したときにまず前足で着地して、衝撃をころしきれずに顔を打ち、転倒して全身を打ちつけたのだろう、という先生の見解でした。 先生は、「骨の直りを良くするために食事に混ぜて与えるように」と粉状の薬をくれ、一週間後に再び来るようにいうとポンを返してくれました。てっきり入院するものだとばかり思っていましたから、それほど大事ではないということが分かって心底ほっとしたものです。 部屋に戻ってからもしばらくは毛を逆立て身を低くしてポンは動きませんでした。言われたとおりに薬を混ぜて与えた食事は一口食べると苦しそうに戻してしまい、それ以来食べる前に匂いを嗅いで、薬入りのキャットフードだと分かると二度と口にしようとしませんでした。 あれだけ毎日ドタバタ走り回っていたポンはショックからか事故の後二週間は鳴きませんでしたし、足の痛みで高いところにも登ることもできませんでした。また骨がくっついてもあの忌まわしい経験をした窓際にはいっさい近づかず、ときどき見上げては口を歪めて苦々しそうにまばたきするのでした。 自分の不注意には違いないのですけれど、早乙女は猫が網戸を開けるなんてまったく思いもよらなかったのです。しかも何故あんな高いところからダイビングまでして…? 色々空想はしましたが、いったいポンが網戸の外に何を見つけたのか、いくら訊いてももう知ることはできないんですよね; 1話へ メニュー 次へ |