実践!一人暮らし-あたる生活 >お部屋編>SLDKとは?>ドアを開けたら2話

デジャブ



コンビニ弁当で簡単に夕食を済まし、買ってきたアルバイト情報誌を見ながらいつのまにか眠りの入り口でまどろんでいた早乙女は、キンコーンという静寂を破る突然のチャイムの音にびっくりして反射的に体を起こしました。

なにやらよくない夢を見ていたらしくどうにもすっきりしない目覚めで、このまだ知り合いもいない新参者にいったい何のようだと、どうして寝ていただけの俺のじゃまをするのだ…。などと半端な寝起きの憂うつをもやもやしている心の中に吐き出しました。


ゆるりと半分ほどドアを開け、はい、はいと尋ねたら、いきなりドアが引っ張られ思わずおっとっととつんのめりそうになったとたん、何者かがひょいと体を玄関口に入れてきました。

「こんばんはー、○△新聞ですけれど、購読の案内にうかがいましたー」
早乙女たちまち正気に戻り、ああなんてこった…とその場で言葉を失うくらいへこたれてしまいました。
というのも、先日例の件があってからドアには必ず内側のチェーンをして無防備に開けないことと自分で決めたのですが、さっそく今日コンビニに出かけて帰ったときそのことを忘れてチェーンをやらないまま。さらに具合のよくないことに寝ぼけ半分でそれに気づかずドアを開けてしまい、また相手に閉められないように体でブロックされるという失態。だれか俺を慰めてくれないかと、助けてくれるひとのいない一人暮らしの試練にヨヨヨと心で泣いたのでした。


あのう、新聞はいらないので閉めてもいいですか? と早乙女は丸顔の髪の毛が薄いおじさんにいいました。新聞の種類は違いますが、無理に閉めようとしてまた「いてて」なんてやられないように警戒したのです。
「いまならドームのチケットあげるから、とりあえず3ヶ月とってみたらいいですよ。そしたらやめちゃえばいいんだから、お得じゃないの。何枚いります?」
おじさんは人馴れした笑みを浮かべながら巧に話を逸らして誘導を始めました。歳を重ねているだけあって前回の男とは一味違う感じです。でも目的は結局同じなわけで、まったく新聞を購読する気のない早乙女はどうやって帰ってもらうか考えなくてはなりませんでした。

「いま全然お金がないんで新聞はとれないです」
「ああそう、いまいくつ? 学生さんかな?」
「いえ、違いますけど」
「あ、お仕事されてるのね。じゃあ社会人なら新聞くらい読んどこうよ」


この当時早乙女はまだ新しい街での働き口も決まらず、少しばかりの蓄えをちびりちびりと切り崩しながら生活しているだけの実質無職者でした。ですので「社会人なのだから」といわれてもやっぱり的外れな気がしたので、「働いてないのでそんな余裕はないです」と返しました。

するとおじさんは早乙女の肩越しに背伸びをして部屋の中に目をやり、テレビと布団しかない現状にしばし唸るとどうらや納得した様子で「ああー…。そうかい。あんた、大変なんだねえ」と初めて素のものと思われる声で早乙女を見つめました。集金できない(できなそうな)者に契約を勧める野暮はないのでしょう。


ええ、だからすいませんけど…。お辞儀しながらやんわりドアを閉めようと試みたのですが、おじさんは「くにはどこなんだい?」とトーンを下げて突っ立ったまんま動きませんでした。
この時早乙女は襟が伸びたシャツとトランクス一丁姿であり、こんな場所でこれ以上身の上を話すことに抵抗がありましたのでそれを濁すと、「ご両親はご健在?」とか「家賃いくら払ってるの?」などとしんみりした顔で興味を持つことをやめないので、いやいやいや…だとか、ええまあ…、という感じのぼやけた相槌でしのぎ続けなくてはなりませんでした。


やがて、ひとしきり質問を終え気が済んだらしいおじさんは、「あんた、いいひとだ」と朴訥につぶやいて、「また来るからさ」と言い残し手を上げながら去っていきました。

緊張していた神経が解き放たれたように、熱い疲労をずしりと首の辺りに感じつつ早乙女はどうっと倒れこみました。うっすら汗を掻いたほっぺたをざらざらしたシーツに擦り付けるともうアルバイト情報誌を開く気力もなく、今夜は早く寝てしまいたい…と、電気に照らされた敷布団の上で目を瞑るのでした。



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