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>お部屋編>「日が良い」とは>シュークリーム日和2話 ひまわり |
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暖気が届かず足下の空気がひんやりと停滞したままの給湯室。そこにある大きなポットにコップ一杯分の水を入れ、コンセントを差込んだらすっかり手持ち無沙汰になりました。 今日じゅうに片付ける必要があった仕事をするために早乙女はこの日休日出勤をしているのですが、店は定休日なので他にだれもいません。 仕事はうまい具合に午前中でほぼ片付け終え、今ようやく背伸びをして休憩をとることができたのでした。 いつもと違い、電話も鳴らず来客もなくしんと静まり返った職場は、デスクワークをするのにうってつけの環境でした。すぐにポットがぐつぐつと音を立てて沸騰の準備を始めました。あの日忘れられた傘はいつまでも寒そうに佇んでいるかのようでした。 ― 「夏の雨上がりって最高!」 そんな快活な彼女と丹念に物件を見て回って店に戻ると、業務用クーラーの吹き出し口から溢れた気持ちのいい風が汗ばんだ首筋と背中に抜けていきました。 体に張り付いたワイシャツの、ぞわぞわと熱を下げていく感触がやけにこそばゆかったことを思い出します。 早乙女たちは机に向き合って座り、今日見学した部屋についての感想を話し始めました。彼女が気に入った物件はいくつかあって、その絞込みです。 彼女はどれにしようか迷って決めかねていました。 一日二日よく考えてみれば? とアドバイスをしたのですが、「たぶんよけい分からなくなりそう」昔から優柔不断なんです、と告白し彼女は頭を掻きました。 同僚が入れてくれたアイスカフェオレの自分の分をぐいっと飲んで早乙女は「この○○パレス、ちょっと前までドレミファ荘っていう名前だったんだよ」と資料を指差しました。すると彼女は「いちばんわたしに向いてるかも」と夏に咲く花のようにからからと明るく笑うのでした。 そんなふうに3歩進んで2歩下がるような調子で早乙女と彼女は会話を続けました。 早乙女が空いたグラスを片付けて席に戻るとき、ふと彼女の腕を見たらいつの間にか鳥肌が出来ていることに気がつきました。そういえば店に入ってからずいぶん時間が経ちましたし、汗もすっかり引っ込んでいたので、また早乙女はさりげなく席をたってクーラーの温度を上げました。彼女もきっと体が冷えたのだと思いました。 「そうそう、ずっと思ってたんだけど、ブレーカーってかっこいいですよね」 「そう? なんででしょう?」早乙女は首を捻って考えました。 「なにかすごく強そうな響きじゃないですか、ブレーカーって」 「うーん」 「あと100ボルトとか、電流がみなぎってそうですごくいいと思うんですよ」 「あー…サイヤ人みたいな?」 「なんですか、それ?」 ドラゴンボールという漫画について教えてあげようかと一瞬考えましたが、そのためには気功波の撃ち方から説明する必要がある気がしたので、「満月を見ると大きな猿に変身する人たちのこと」、とだけ教えました。 「それってオオカミオトコの仲間ですか?」 「簡単にいえばそういう存在かな」 「らんま1/2みたい」 「えーと、らんまを知ってるんだ?」 「はいっ。大人ですから」 彼女はそういって笑い、実はだいぶ年の離れた姉がいるんです、と打ち明けました。小さいころからよく姉の買った漫画本を読んでいたから…。 彼女のお姉さんとは同年代かもしれないなと早乙女は思いました。 彼女が物件の申込用紙に記入をして帰るころには、陽が空を焼き始めていました。 「じゃあ、大家さんに返事をもらったら電話しますからね」と早乙女がいうと、彼女は嬉しそうに金色の髪を揺らして「楽しみです」と微笑みました。その表情は今日のお昼に初めて会った時よりずっと柔和になっている気がしました。 一日彼女に付きっ切りで日が暮れてしまいましたが、その笑顔を見て、早乙女はいい仕事ができて本当によかったと思ったのでした。 1話へ メニュー →続き |