| >プロフィール>昔その4 まわり始めたコインランドリー |
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まだ早乙女が鮨屋に入りたてのころ、こんなことがありました。 当時店が用意してくれた寮はマンションの一室で、そこに早乙女も入れて同期の見習い3人で住まわせてもらっていました。ただ同期といっても二人はすこしづつ年上で、以前にべつの店で働いていたことのあるいわば経験者でしたから、年もいちばん下でしろうとの早乙女はよく部屋の雑用などをしていました。 この日も三人分の洗濯物の入ったかごをもって近所のコインランドリーに向かったのですが、珍しく休みでシャッターが閉まっていました。 そのころはまだ新しい街のこともよくわかっていませんでしたし、べつのコインランドリーに行くにも場所をしりません。シャッターのまえで立ち尽くして、どうしようと困っていると60歳くらいのおばさんに声をかけられました。 ええ、休みでまいりました・・・はい洗濯機はないんです・・・などと答えているとおばさんは柔和な表情で「じゃあ、うちの近くにあるからそこ教えてあげるね」とおばさんの家の近所のコインランドリーまで案内していただけることになったのです。 そこからゆっくり歩いて20〜30分くらいだったでしょうか、道中おばさんはずっとにこにことやさしげな表情のまま早乙女と話をしていました。おばさんはデパートの買い物帰りで手に紙袋をもっていました。いつもこうして歩いてデパートまでいくみたいでした。「毎日だから慣れたわ」わざわざ歩くのは健康のためといっていました。 コインランドリーで洗濯しているあいだ、早乙女はおばさんの家でお茶をごちそうになっていました。デパートで買ってきたばかりのカステラを出してくれたのです。 早乙女は日々の緊張のつかれが氷のように体から溶け出していく感覚を味わいました。おばさんの家は水道工事の仕事を営んでいて、ご主人と二人だいぶゆとりのある暮らしをいているようでした。 「なにかあったら、またいらっしゃい」 おばさんの厚意にいたく感謝し、早乙女は何度も何度もお礼をいいました。 あれから約3年、宿無しの早乙女はいやしくもまたそのおばさんに会いに行こうと思ったのでした。事情を話して雇ってもらえないかきいてみるつもりだったのです。見方によってはおばさんを困らせることになるかもしれない行為だというのは充分承知していましたし、無理はいわず、だめなら直ちに退こうときめていました。 カミソリで髭を剃り、トイレの洗面台で顔を洗いました。髪を手ぐしでどうにか整えて準備をすると、胸がドッドッドッと急に高鳴りました。ひさしぶりに緊張していたのです。 見失いかけた記憶の糸を慎重に手繰り寄せ、何度かまちがえたあとなんとか懐かしいおばさんの家に辿り着きました。 → 続き |
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