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>お部屋編>「日が良い」とは>シュークリーム日和3話 電話 |
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早乙女が大家さんの承諾をもらい、その報告の電話をかけたのは申し込みから三日後のことでした。 その間、彼女も自分が傘を忘れていったことに未だ気がついていなくても不思議じゃないほどの快晴が続いており、街はいよいよ夏真っ盛りに情景を深めていました。 暑さで皆ぐったりとし始めた午後、早乙女は冷たいカフェオレで喉を潤してからデスクに座り彼女に電話をかけました。プルルル…という呼び出し音と共鳴するかのように何故か心臓がドキドキと鳴り始めました。胸のドキドキはどんどん大きくなっていきました。 じれったい呼び出し音を10回数えたところで唐突に受話器の向こう側の空気が変わり、一瞬の間が生まれました。早乙女は彼女が電話に出たのだと思い「もしもし」と話しかけたのですが、それも言い終わらないうちにケータイの留守番電話サービスのガイダンスが流れてきました。早乙女は喋ることをやめて受話器を置きました。 夕方にもう一度かけてみましたが、やはり呼び出し音は10回鳴って留守番電話のガイダンスに切り替わりました。 次の日は時間を変えて午前中に試してみましたが結果は同じでした。 早乙女は一度切った電話を再びかけ直して、今度は彼女の留守番電話に「審査が通ったから都合のいいときに連絡ください」とメッセージを残しました。でもその日も翌日もまた彼女と話すことは叶いませんでした。 どうしちゃったんだろう。やっぱり気が変わって今のところに住むつもりなのかな。それともケータイを忘れて旅行に出かけてしまったのかもな。ありえないことじゃないだろ…? 家族に訊いてみればなにかわかるかもしれないと思い、早乙女は申込書に彼女が書いた実家の電話番号にかけてみることにしました。 その電話が思いの外あっさりと繋がったので、つい油断していた早乙女はおでこを弾かれたように慌ててしまいました。 「あ、えーと、□□不動産ですけど、(彼女の名前)さんはいらっしゃいますか?」 「…はい? どちら様ですって?」 早乙女はもう一度会社と自分の名前を名乗りました。電話に出た中年の女性は彼女のお母さんと思われましたが、声はひどく沈んで疲れているように感じました。 「…ええ、娘ですけど、なにか?」 「実はお部屋の件で連絡をとりたいのですが」 「…あの子は死んでしまいました」その女性はそういいました。 呆然と口を開けて早乙女は言葉を失くしました。耳に当てた受話器がやたらひんやりしました。 「(彼女の名前)さん、ですよ? 専門学校生の、△△に暮らしている…間違いありませんか?」 「はい。(彼女の名前)は数日前に部屋で事故死してしまいました。私たちも連絡を受けて、昨日の夜△△から帰ってきたところです…」そういうとお母さんは言葉に詰まりついに咽び泣きました。 「ご迷惑をおかけして申し訳ありません…」 最後に絞り出すようにそう詫びるのでした。 早乙女はイスから立ち上がれないほどショックを受けてただ宙を見続けました。ほんの六日前に彼女と話した光景がぐるぐると頭の中で回って、反芻するたびその思い出が痛みとなって胸を締め付けました。あのこが死んでしまった、あのこが死んでしまった、一緒にシュークリームを食べたばかりのあのこがもういないんだ。 心臓がどっどっどっと体の内側を走り回るように暴れだしました。うろたえて、うろたえて、震える手でやっとコップに飲み物を注ぐと、シンクの流し台に寄りかかってそれを飲みました。そして後から茶を入れにきた後輩に「この間の金髪の女の子が亡くなった」と口走ると、その後輩が「あの傘の人がですか!?」と素っ頓狂な声で驚くのでつられて早乙女もそうなんだよそうなんだよもう本当に…と言葉が止まらなくなってしまいました。 時間を置いていくらか気分が収まると、早乙女はもう一度彼女の実家に電話をかけました。後輩のおかげでやらなくてはならないことを思い出したのです。 「はい、もしもし?」と、先ほどとは違う甲高い女性の声が忙しそうに電話口にでました。直感で彼女がいっていた「年の離れた姉」だと思いました。 早乙女は名前を告げ、一連の事情を話した後で「その傘なのですが、そちらに送ったほうがよろしいですか?」と尋ねました。 すると姉と思しき女性は「けっこうです。また近いうち△△方面に行かなくてはならない用事が残っていますから、その時にでも伺いますので」と迷惑そうに言い放つとさっさと電話を切ってしまいました。まるで亡くなった妹の傘などこれっぽっちも関心がないといわんばかりに。 それはとても悲しい出来事でした。 2話へ メニュー →続き |