| >プロフィール>昔その5 時のいたずら |
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おばさんの家は3年前にくらべてどことなく変な印象をうけました。1階の事務所は閉めっきりになっているようで、窓が埃で汚れていました。庭の草花も手入れができておらず、鉢植えの土は乾いたまま放置されてカチカチに固まっていました。全体的に荒れた状態で、あの日の記憶とだいぶかけ離れた佇まいでした。 インターホンを一度押し反応をみました。ここまでくると胸の高鳴りも収まり、むしろどうにでもなれという開き直りができるほど気持ちに落ち着きがありました。 反応がなかったのでもう一度押そうとしたとき、ドアのむこうから「開いてますよ」と声がしました。早乙女の脳裏にあのおばさんの声が一瞬で蘇りました。 早乙女は慎重にドアを開けて「ごめんください」と姿のみえない声の主を呼びました。 「・・・はいはい、どなた?」やがて奥の部屋から現れた老いた女性は、あのおばさんに間違いありませんでした。 「おひさしぶりです。おぼえてますか・・・?」 早乙女がお辞儀をするとおばさんは、すこし沈黙したあと「あら」といいました。そして奥の部屋にむけて「おじいさん、珍しいお客さんがいらっしゃった!」とおどろいたようにいいました。 おじいさんとはおばさんのご主人で、当時は何人もの従業員を使う社長でした。3年前失礼した帰り際に、事務所でちらっと拝見したことがあるくらいで言葉もかわしていませんでしたから、早乙女のことは後でおばさんに話しできいたくらいしかしらないはずです。 年のわりに大きな体でおばさんのうしろにゆらりと立ち止まった社長は、笑うでもなく考えるでもなく無表情に早乙女を見つめました。 おじぎをしてもただ突っ立っているまま「ああ・・・」と呻くだけで、特別意思のようなものは感じられませんでした。 早乙女はふたりに事情を簡単に説明しました。始めから丁寧にひとつひとつかいつまんで話をしてしまうと、いかにも情けを乞うようで気がひけたのです。もちろんきかれたことはきちんと答えるつもりでしたが、おばさんは特になにか問うでもなく「いいよ、寝かせてあげるくらいはできるからね」と拍子抜けするくらい温かく早乙女を迎えてくれました。 社長はやっぱりなにか言うでもなく、話しすらちゃんときいていない様子でおばさんの後ろ姿を見ているだけでした。 おばさんは早乙女に現在の自分の家のことを話してくれました。 大きな借金があり従業員に給料が払えなくなってしまったこと。今はその従業員がいないので仕事もできず、事務所をたたんでいること。そして以前に工事で使った日雇いの労働者に日給を払っておらず、そのうちの宿をもたない何人かが押しかけて来て家に住みついていること・・・など。全部おじいさんがぼけてしまってからおかしくなっていったそうです。 さらに自営業者にありがちな、夫婦ともどもまともに年金を払っていなかったということ。今は他所で暮らしているひとり娘の仕送りを頼りにどうにか生活しているとおばさんはいっていました。 そんな3年前と変わり果てた苦しい状況の中、早乙女を迎えてくれるのはひょっとして単に断りづらいだけなんじゃないかと思い、おばさんに「いてもいいんですか?」ときいてみました。 おばさんはさっきと同じように、いいんだよというふうに頷きました。 早乙女は、この方には癒されてばかりいる・・・という思いから、言葉にならない感謝の気持ちで胸が熱くなりました。 → 続き |
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