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>お部屋編>足の匂いが気になる時>コミィのなつやすみ この広い野原いっぱい |
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職場に小峰君という後輩がおりまして、実はかれの足はとても臭い。 かれの場合体質でどうこう匂うというよりは、あきらかにズボラな性格が原因でして、夜会社から帰るなり趣味のプレイステーションのスイッチを入れれば東の空が明け始めるくらいまでほか弁を食べながら遊んでしまう。風呂など一日おきに入ればいいほうで、待ち焦がれた新作のゲームを手に入れようものなら3日くらいは余裕で朝まで遊び倒す。2〜3時間の仮眠の末、忘れなければ風呂場でシャワーくらいは浴びるが、たいてい目覚まし時計が一度鳴ったくらいでは起きられず、ぎりぎりになってから服だけ着替えて家を飛び出す。 コミィの一日は完全に趣味のゲームを中心に回っていました。 そんなかれに仕事の折、車の中でいまどんなゲームにハマっているんだ? と尋ねると、「ぼくのなつやすみ」という答え。 なんだそれ新作なのかい? とまたきくとそうではないらしい。 「今度スリーが出るんですけど、こういうシリーズものは最初からやったほうがいいでしょう?」 「なるほど」 「本当ははやくスリーをやりたいんです」 「おもしろい?」 「はい、とっても!」 コミィは早乙女より4つ年下で、まだ車の免許をとって就職してきたばかり。大家さんへの電話と車線変更が苦手で前は洋食屋でウエイターをしていたらしい。見た目は保坂尚輝を彷彿させるようななかなかの男前だし、しゃべり方も温和。そんなコミィが寝不足の目を爛々と輝かせて語り出す「ぼくのなつやすみ」を早乙女は無性にやってみたくなったのでした。 早乙女の家にも妻が買ったプレイステーションがあるので、夕食の後さっそくコミィから借りたDVD-ROMをセットし蓋を閉じてみた。 ゲームは主人公で都会っ子のボクくんとその父親が運転する車のカーラジオの調子がおかしいところから始まる。舞台は昭和時代の田舎町。夏休みの間ボクくんが一ヶ月間お世話になるおじさんの広いお家に辿り着くと、おじさんの家族が自己紹介を始める。主人公の少年は「こんにちは。ボクです」とご挨拶。 そんなほのぼのしたオープニングムービーにじんわり心が癒された。 「ねえこれいいよ」と傍らで寝そべっている妻にいうと、 「私向きじゃないと思う」とつれない返事。彼女はゾンビに機関銃をぶっ放したりできるゲームのほうが好きみたいでした。 ボクくんがある日山に遊びに行くと、おじさんの畑からスイカを盗む少年を発見してしまう。のちに偶然見つけた秘密基地にその少年はいた。 この少年は仲間からガッツと呼ばれていて、地元の小学生グループのリーダー格だった。 「いいか、男と男の約束だぞ」 ボクくんはスイカ泥棒のことを大人に言わない代わりにガッツたちの秘密基地への出入りを許された。 仲間にはでぶっちょで生意気なファットと冷静で真面目なメガネがいた。そこにボクくんが加わり、さながらスタンド・バイ・ミーみたいなノリがまた泣ける。かれらとは秘密の抜け道を教えてもらうためにクワガタやカブトムシで何度も何度も相撲をとった。 「詩って書いて”しらべ”っていうのよ」 おじさんの家の次女、詩が庭で何かを夢中になって見ている。 「なにをしているの?」 ボクくんが尋ねると、 「アリを見てるの」そして働きアリにたいし「美しいわ」といってボクくんを突き放す。 詩はボクくんより年下であるけれど、このくらいの年齢の女の子特有のマセ方をしている。だけどそれがまたすごく可愛らしいのです。 「あんたなんかいなくても、詩、ちっとも淋しくなんかないんだからね」 そんな取っつきにくい詩の姉、萌はこの家の長女。さすがお姉さんだけあって落ち着いてるし、ボクくんを弟のように接してくれる。 反面、恋と進路に悩み、星を眺めてはため息。ロマンチストで傷つきやすく、よく縁側で想いを募らせながら笛を練習しているのでした。 「昔ね、私にもボクくんくらいの弟がいたんだ」 おじさんとおばちゃんは夕食が終わるといつも居間で一休み。萌と進路のことで喧嘩したときも長女の成長を温かい目で見守ろうとする心優しい人たち。おじさんは凧作りの名人で、ボクくんがお願いすればいろんな凧を作ってくれるし、夕方になればどこにいても迎えに来てくれる。 おばちゃんの夕ご飯クイズは常に三択。冷蔵庫を開けて入っている食材からおかずを予想するのですが、これがなかなか難しいのであります。写真を撮ってくれるのはいつもおばちゃんでした。 セミが鳴き、鳥がさえずる広大な田舎町を毎日走りまわって釣りをしたり、網でちょうちょを捕まえたりしながら物語は進行していく。何かをしてもいいし、何もしなくてもいい。ひさしの風鈴がチリリンと揺れればそれだけで胸が熱くなる。そんな夏のノスタルジー溢れるゲームなのです。 やがてボクくんが迎えにきた父親の車で都会に帰るシーンでは、あの詩が追いかけてきて「さようなら」と。 早乙女の涙線はここで一気に破裂。もうだめ。ゲームでこんなに泣いたの初めてだ…。 「みんなみんなさようなら。みんなみんな大好きだよ」 で、コミィといえば今日も相変わらず足が臭い。 たちがわるいことに若いから余計に臭い。 でもでも、この「ぼくのなつやすみ」をやってからというもの、コミィのそんなズボラさにさえ少年っぽさを感じてしまいどうにも怒る気になれない。 コミィのなかにも自分と同じ「夏」があるんだなあ、と思うとたまらなく嬉しくなってしまうのです。 前へ← メニュー 次へ |